熱帯郊外型住宅
「地球温暖化の時代はもはや終わり、地球沸騰の時代が到来した」-変えうる遠い未来ではなく事実としてある日本の熱帯化。わたしたちが建築を実践するベトナム・東南アジアを超え、同様の気候的状況がより広い世界を包み込もうとしている。この新しい世界におけるふつうの住まい-”熱帯郊外型住宅”を提案する。
元々敷地が広いベトナムの田舎の住宅では、土地全体が生活の場として利用されるだけでなく、同時に食物や建材をも生産し、それらが屋敷林のように敷地に影を落とす役割を持っていた。住宅それ自体は小さくとも、その周りに建築にも満たない弱い線を重ねることで、住人は衣替えをするような気軽さで熱帯の環境に適応してきた。
それにならい”熱帯郊外型住宅”では、高気密・高断熱で外部環境を遮断することを良しとしてきたこれまでの”良い家”とは異なり、気候調整のためのレイヤーを何重にも重ねていくことで季節によって生活の場が動いたり伸び縮みしたりするような、柔軟な微気候を作り出す。
比較的広い敷地を獲得できる郊外を舞台に、建ぺい率30%以下の小さな住居と残り70%の家未満の環境を等価に設計することで、広大な敷地全てを巨大な家とする。どこからが建築で、どこからが家具か、どこからがランドスケープなのか、そうした区切りがほどかれていくような不完全な環境をつくることを目指した。